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 獣のうたう■■のうた


「あのこがほしい」
 夕暮れの並盛に童謡が微かに流れていた。子供一人で歌うわらべうたはひどく切なく響く。巡回中の雲雀は途切れがちな歌声にふと眉を顰めた。群れた児戯に参加したことなどないが、花いちもんめがどんな遊びかは知っている。
 ふと頭をよぎる面影はへにゃりと眉を下げて情けない顔をしている。おそらく昔は遊びに入れてもらえない、あるいは選ばれることなどなかっただろう子。誰もが馬鹿にしていた、とろくて不器用で、それでいて芯の強いこども。────あの子が欲しい。
 沢田綱吉は今磨かれている原石だ。泥の中の岩に包まれて眠っていた石。家庭教師に外の世界へと連れ出され、これからもっともっと変わっていくだろう。基本強さにしか興味のない雲雀が、強さ以外の“何か”に興味を引かれるまでになった。雲雀の目にさえ時に眩しく映るのだから、他人が見れば如何なるものか。彼を欲しがる人間は、これから先増えはしても決して減りはしないだろう。
 勝たなければ手に入れられない。ならばすべきことは決まっている。雲雀は元来自分に正直に生きてきた。欲しいものに手を伸ばすことを躊躇うはずもなく。解き放たれた獣は、獲物を手にするまで眠りはしないのだ。
「君が、欲しい」
 覚悟しなよ。口角を上げた雲雀の顔を今彼が見ていたならば、きっと悲鳴を上げただろう。赤く染まる空に最後の一節が遠く溶けていった。

(18.05.14)


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